「2000年にわたって同じ民族が、同じ言語で、同じ一つの王朝を保ち続けている国など世界中に日本しかない」 麻生太郎氏の発言への反駁としての、サピア=ウォーフの仮説

朔海あかり

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コラム
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ある朝グレゴール・ザムザは、自分が一匹の毒虫になっていることに気が付いた。
 カフカはこの文章を、ドイツ語で書いた。

 伊藤計劃氏の代表作「虐殺器官」第2部4はこの文から始まる。
  虐殺器官という作品は物語の背景にいくつもの作品や作家の背景が緻密に織り込まれており、2部の舞台になるプラハはカフカが生まれ育った街として、プラハという街が持っている「事情」を作品の背景に忍び込ませている。

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 カフカの生きた第一次世界大戦前後のプラハでは、チェコ語を話す者の割合が多かったが、富裕層はドイツ語を話し、両者の間には溝があった。ドイツ語話者の多くはドイツへ同化したユダヤ人(アシュケナージ系)であり、ドイツ語話者のコミュニティはいわゆる「貴族的」なものを好み、プラハでは多数であるチェコ語コミュニティを差別視していたという。更にユダヤ人の中でも、富裕層はそうでないユダヤ人を差別視する傾向があった。(この民族間の溝は現在のイスラエルが持っている格差と断絶にも繋がる)

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 話をカフカに戻そう。アシュケナージ系ユダヤ人の家庭に生まれたカフカは、チェコ語を母国語としながらドイツ語も話してはいたが完全には習得してはいなかったという。そんなカフカが小説を書く時になぜ母国語ではないドイツ語で書いたのか。カフカについてはたくさんの分野で解釈がなされているので(宗教、精神文学、社会学、歴史学など)それらの専門書へ詳細は預けたいが、ここでは、カフカが作品に用いたドイツ語は、明瞭で正確な古典的ドイツ語だということを強調したい。(※プラハのドイツ語は日常語として発展はせず、逆に標準ドイツ語の純粋さを残していたというが、カフカは正確なドイツ語を小説で使う事にこだわっていたという。プラハのドイツ語がその言語の中心地ではない故に古典的な形を残しているというケースは日本においても見受けられる事を追記したい)

  伊藤計劃氏の「虐殺器官」には、カフカの説明の後に、サピア=ウォーフの仮説にも触れる。
 サピア=ウォーフの仮説というと耳馴染みがないかもしれないが、「人は言語によって思考する」という言葉は聞いたことがあるかと思う。この説は現在において「仮説」であり、証明はされていないという。

 サピア=ウォーフの仮説を根拠に、「日本人が日本語を使う故に、英語を母国語とする者より論理的思考が苦手だ」と主張する人もいるようだが、それは明治維新からの「西洋へのコンプレックスと憧憬」ゆえに言い訳を日本語という言語に求めているに過ぎないと私は思っている。

 ここで、もう一冊、本の紹介をしたいと思う。

 今回の文はモスクのモザイク画のように、幾つかの情報を提示して、問題提起をしたい。

 言語学者の町田健氏(名古屋大学名誉教授)の著書「言語世界地図」という良書がある。新潮社新書から出版されている本であり、一般向けに書かれているために解りやすく、かつ、その言語が使われる歴史的背景、地理的背景などの解説を交え、まるで現地へ行ったかのような気にさせる、とてとてもエキサイティングな内容になっている。

 その中での日本語の項目から抜粋をする。

 日本語が、いつから日本列島で使われているのかは分からないが、おそらく弥生時代には、現代のような日本語の原型は出来上がっていたものと思われる。ただ、我々が知ることができる最古の日本語は、「万葉集」や「古事記」のような文献が残っている八世紀のものに過ぎない。

 (※源氏物語などの古典文学を踏まえた上で)”このように高い威信を誇る日本語であるが、言語としての特徴は極めて「普通」である。母音が五個、子音が学説にもよるが、十三個程度で、世界の諸言語の中では少ない方だし、使われる母音や子音は発音の簡単なごくありふれた音が中心である。“

 蛇足になるかもしれないが、弥生時代をウエブ上で検索する。日本語版ウィキペディアには紀元前10世紀から紀元後3世紀、とあり、ブリタニカ国際大百科事典では紀元前3~2世紀から紀元後3世紀、とある。

 弥生時代の定義が、日本語版ウィキペディアでは700年過去に遡っている点を指摘し、話を、江戸時代の政府(これを日本と呼んでもいいのか)が、制圧した琉球方面へ視点を向ける。

 ウィキペディアから、「方言札」の項目にこうある。

 ブルボン王朝のフランスでは絶対王政が敷かれ、オック語・プロヴァンス語・ブルトン語などの地方言語をフランス標準語に対する方言とし、方言を話した生徒に方言札を掛けさせて、見せしめにするということが行われた 。イギリスのウェールズでも、同様の例としてWelsh Notがあった。

(※蛇足だが、イギリスは連合国であり、ウェールズもまた他民族国家であり、現在でもウェールズとイングランドの間には、確執があると聞く)

 フランスの方言札制度は日本にも取り入れられ、特に日本本土との言語差が大きい沖縄県の教育現場で熱心に行われた。

 沖縄県のほかに東北地方や鹿児島県でも同様の標準語教育が行われた。太平洋戦争後も方言札が継続して使用されたのは沖縄県のみである

(※繰り返しになるが、琉球は1609年に薩摩藩の侵略を受け、その後薩摩藩の付庸国とされた)

 日本が委任統治していたパラオの学校でも日本語の使用が強制される場面があり、校内でパラオ語を話した生徒に「私はパラオ語を話しました」と書いた札を首から下げさせる日本人教員もいたという

(※委任統治領についての「問題」は別の機会に詳細を書きたいと思うが、ここでは植民地支配も委託統治も武力による抑圧だという私の意見を書くに留める)

 更に、麻生太郎副総理兼財務相の発言に対しての反駁のモザイクピースとして、下記の引用を示したい。

 今世界に存在するおよそ6000の言語のうち、2500もが消滅の危機にさらされているというのだ。(中略)消滅が危ぶまれる程度には4段階あって、最も危険な「極めて深刻」が538言語、それに次ぐ「重大な危険」が502言語、「危険」が632言語、「脆弱」が607言語だった。(中略)ユネスコの発表の中には、日本国内で話されている「言語」が、いくつも挙げられていた。
 アイヌ語は、「極めて深刻」と評価された。つまり、消滅の危機に一番近い。
「重大な危険」とされたのが、沖縄県の八重山語、与那国語。
「危険」が、同じく沖縄県の沖縄語、国頭(くにがみ)語、宮古語、さらに、鹿児島県奄美諸島の奄美語、東京都八丈島などの八丈語である。
 これを読んで、おや? と思う人は多いと思う。これらはすべて、日本語の中の方言ではなく、独立した言語として扱われているのだ。

ナショナルジオグラフィックのウエブサイトにある、国立国語研究所の木部暢子教授の特集ページ「6000言語のうち2500が消滅する!?」(参考URL https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20120627/314021/ )

 私が今回提示したモザイクのピースは言語学においても歴史学においても非常に少ないものだとは承知している。その上で、一般人としての意見を言いたい。

 サピア=ウォーフの仮説証明は、脳の認識などの研究で今後なんらかの答えが出るかもしれない。言語が脳の認識へ影響を与えるのかどうかなどはそれぞれの専門家へ議論を預けるとしても、人の思考は、取得する情報によって大きく左右されると私は思っている。日本語話者の多数(ほぼ全てと言っていいかもしれない)は、日本と大陸の間に海という壁がある故に、他の言語を使う機会がなく他言語習得に困難を感じる事はあるだろう。だがそれは日本語が世界一特殊な言語だからという訳ではない。日本語は言語学的にも文法的にもごく平均的なものであり、発音に至っては容易な部類なのだから。

 だが、日本語のウエブ空間の中では、日本は世界最古の王朝、文明、世界で唯一のユニークさを持つ言語などという根拠が薄弱な、または根拠がない言説ばかりが検索上位を占めている。2000年続いた王朝という麻生氏の発言の王朝という部分もまた歴史学的には正確ではない。しかし日本語のウエブでは、日本の古事記や日本書紀に書かれている事は事実であり、果てはエジプトやメソポタミア文明に影響を与えたとする説まで見受けられる。これでは、ナチスのゲオルギイ・グルジエフがゲルマン民族を世界で最古の民族とする根拠を無理やり探し出そうと、チベットで地底王国アガルタを探した行動となんら変わらない。

 そんなオカルティストと同じ言説を、内閣府の麻生太郎副総理兼財務相が堂々と発言したのだ。日本は世界一であるというナショナリズム的プロパガンダが日本語メディアで拡散し一周まわって、麻生太郎副総理兼財務相の口から出たのだ。日本が辿ってきた歴史を修正し、他民族を制圧した歴史を改ざんしてなかったことにした結果が今回の「占領者による傲慢な発言」につながったのだと私は思っている。日本は単一民族国ではないし、歴史上他の民族を武力で制圧し、その部族が使用していた言語を壊し、日本語を強要してきた歴史があって、現在の日本があるのだ。

 再度、サピア=ウォーフの仮説に話を戻す。

 人は言語によって理論的思考を得るのかは未証明の仮説だが、人は、得た情報で思考すると私は思う。だからこそ、同じ情報でも多数のソースを探す事にしているし、日本語以外の情報を得るよう心掛けている。
 

 「2000年にわたって同じ民族が、同じ言語で、同じ一つの王朝を保ち続けている国など世界中に日本しかない」麻生太郎副総理兼財務相の発言はプロパガンダなのか、本人がそう心の底から認識しているのか(私は後者だと思うが)、真実は解らない。だが、日本語が情報にバイアスをかけ、日本語圏の人間の思考を視野狭窄に陥れていることを、とても残念に思う。

 ――カフカはなぜ、小説を全てドイツ語で綴ったのか。チェコでインテリ層であったドイツ語話者を意識して、ドイツ語で小説を書いたのか。ドイツに同化せざるを得なかったユダヤ人という家系に生まれたカフカは、晩年、ユダヤ人が使用しているヘブライ語を学んだというが、なぜ、チェコ語やヘブライ語で小説を書かなかったのか。そんな事をつらつらと考えながら、一旦締めくくる。

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コメント

  1. トリ食えば名無し より:

    何をダラダラ書いてんだ(笑)

  2. トリ食えば名無し より:

    確かに、一つの民族や1つの王朝・・・というのは
    違和感を覚えた。
    ナショナリズムを感化させるにもやり方があると思う。
    日本では2000年間、一つの民族だった、1つの王朝だった、訳では無い。
    最近麻生の原稿作ってる人達って、ちょっと考え方が中華思想と似通ってるから変に思うな
    一体どういうつもりだ

  3. トリ食えば名無し より:

    列島の次の覇者は誰だ⁉

  4. 番外 より:

    サピア=ウォーフの仮説、については浅学にて何とも言えませんが、他の言語を使うことで自国の外から見える世界を見るのは有意義だと思います。
    日本の相対的な地位の低下も見えちゃうので、夢を見ていたい人は見なかったことにしたいかもしれませんが。
    カフカが「ヘブライ語」を学ぼうとしていたのなら、シオニズムに関心があったのかもしれませんね。時代的に。地元のユダヤ系言語は多分イディッシュ語だと思いますので。違ってたらすみません。

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